エージェント型AIブラウザ、つまりLLMがWebページを操作し、リンクをクリックし、フォームに入力し、ユーザーに代わってページ内容を読み取る製品は、この1年で実験的機能から主要AIベンダーの正式製品へと移行した。ChatGPT Atlas、Perplexity Comet、Anthropicの Claude for Chrome拡張機能はいずれも、単にユーザーが読み込んだページを要約するだけでなく、有効な認証済みブラウザセッション内でモデルが自律的に行動する権限を与えている。
LayerXの主任研究員Roy Paz氏は、この手法をビデオゲーム『BioShock』にちなんで「BioShocking」と命名した。同作では、プレイヤーキャラクターが「Would you kindly」という言葉で始まる指示に無条件で従うよう条件付けされており、それらの指示が単にゲームの内部ロジックの一部にすぎないと、本人が気づかぬまま信じ込まされている。
エージェントモードや自律ブラウジング機能を有効化している組織のセキュリティチームは、ChatGPT Atlas、Comet、Claude for Chromeなど、対象となる製品において現在エージェントが常時アクセス可能な認証済みアカウント・セッションを洗い出すべきである。ソースコードリポジトリ、パスワードマネージャー、管理コンソールは、エージェントモードが監督なしに立ち入るべきではない高機密コンテキストとして扱う必要がある。各ベンダーに対し、BioShocking固有の修正、および文脈再フレーミング攻撃全般への対策が実装済みかどうかを確認すべきである。ベンダーが開示に応答していない、または修正の確認が取れていない場合は、機密性の高い認証済みセッションに対するエージェントモードのブラウジングを、ベンダーの対応状況が明確になるまで無効化することを検討すべきである。
CSAの「Identity and Access Gaps in the Age of Autonomous AI」は、本リサーチノートが取り上げるアーキテクチャ上のパターン、つまりエージェントが独立したエンティティとして管理されるのではなく、人間や共有アイデンティティを借用することで権限の継承と攻撃対象領域の拡大が生じるを、まさにBioShockingがすべてのブラウザで成功した「常時アクセス」の問題として描いている。
クラウドセキュリティに関わっていて、使用している環境は信頼できるのかという疑問にぶつかる。自分のPCなら目の前にある機械そのものを信頼すればよいと言えるが、クラウドでは物理的に見えない・触れない環境で動いているため、何を信頼の根拠にするかが難しい。そこで、この信頼の起点になるRoot of Trustをクラウドに限らず全般的に整理してみようというのがここでの目的である。
Root of Trustという概念は、TPMやHSMといったハードウェア単体の話にとどまらず、クラウドの仮想化基盤、FIPS 140-3やCommon Criteriaといった第三者評価制度、ISMAPやCSA CCMなどのガバナンス基準、OktaやパスキーのようなIDプロバイダ、さらにはJPKI・FPOSのような公的アイデンティティ基盤まで、幅広い層にまたがって登場する。ここでは、これらを個別バラバラに理解するのではなく、「信頼の起点」という一本の軸で串刺しに整理することを目的としている。
TPM/HSM等のセキュリティチップと、クラウド側のRoot of Trust実装の違いを整理したい方、ISMAPやCSA CCMなど、クラウドガバナンス制度がRoot of Trustをどう扱っているか把握したい方、JPKIのようなデジタルアイデンティティ基盤と、企業向けIdPとの役割分担を理解したい方には一読していただきたい。
AI による脆弱性発見と悪用が加速し、防御側に与えられる時間は縮み続けている。この新しいベースラインに耐える組織を、「AI脆弱性の嵐」は「Mythosレディ」なセキュリティプログラムと呼んだ。その中核に置かれたのが、脆弱性対応を一過性の作業ではなく恒久的な組織能力として運用する VulnOps の発想である。Bruce Schneierらは、AIによる脆弱性研究の運用化が「VulnOps」という新しい実務領域を生み出す可能性を指摘している。
加えてCVE件数の爆発的増加が追い打ちをかける。CSAの「VulnOps: Vulnerability Management in the Age of AI」(2026年5月)によると、CVE件数は2020年比で約3倍に増加しており2026年も増加が続いている。さらにNISTのNVDは2026年4月15日、リスクベーストリアージポリシーを発表し、CISAのKEVカタログ掲載のCVEや連邦政府使用ソフトウェアなどに限定してフル分析を提供するようになった(CSA Labsの解説記事)。多くのCVEはCVSSスコアやCPE識別子なしで届くことになり、既存の脆弱性管理ツールが依存してきたパブリックインフラが構造的に変化したと言える。
VulnOps(Vulnerability Operations)という用語は、2025年9月にHeather Adkins(Google CISO)とGadi Evronが警告を発し、同年10月にBruce Schneierも加わって「Vulnerability Operations(VulnOps)」という概念を提唱した。その後「AI脆弱性の嵐」でVulnOpsを「恒久的な組織能力」として位置づけ、CSA Labsが2026年5月に「VulnOps: Vulnerability Management in the Age of AI」として定義している。
CTEMはこれを補完する。ゼロトラストが設計した防御が実際に機能しているかを継続的に検証し、環境変化によって新たに生まれた攻撃経路を発見・修復し続ける。ゼロトラストが「プロテクトサーフェスへの攻撃経路を制御する構造を設計する」フレームワークだとすると、CTEMは「その構造が機能し続けているかを継続的に確かめる」フレームワークである。 したがって、両者は競合しない。ゼロトラストのプロテクトサーフェス定義がCTEMのScopingの優先順位を決め、CTEMのValidation(BAS)がゼロトラストのコントロールの有効性を検証し、CTEMが発見した新たな攻撃経路がゼロトラストのポリシー更新を促す。この循環が3層を同時に育てていくと言える。(出典:CSA「Seize the Zero Moment of Trust」2025.01 https://cloudsecurityalliance.org/blog/2025/01/31/seize-the-zero-moment-of-trust)
CTEMのValidationフェーズに対応する。スコアではなく「実際に攻撃が通るか」を自動化されたシミュレーションで確認する。BAS(Breach and Attack Simulation)は実際の攻撃者の戦術・技術・手順(TTP)を安全な環境でエミュレートし、セキュリティコントロールが実際に機能しているかを継続的・自動的に検証するツールだ。ファイアウォール・EDR・SIEMが期待通りに動作しているか、ゼロトラストのセグメンテーションが横展開を実際に阻止できるかを実証する。ペネトレーションテストを補完するが完全に置き換えるものではない。 ペネトレーションテストとの違いは「継続性」である。ペネトレーションテストは年1〜2回の点検であるのに対し、BASは環境変化のたびに再実行できる。MythosクラスのAIが修復猶予を数時間レベルに縮小させる可能性がある時代に、年1回の点検では間に合わない。
VulnOpsの各ステップにAIエージェントを組み込むことで、人間が追いかけられない速度のCVE増加に対応できる。ただしAIエージェントを「信頼されたオペレータ」として無制限に動かすことは、エージェント自体が攻撃の踏み台になるリスクを生む可能性がある。パッチ適用やポリシー変更を自律的に実行する権限を持つエージェントが侵害されれば、攻撃者はそのエージェントを通じて組織全体に影響を及ぼすことができる。CSAIのAgentic Control Planeが定義する5要素、すなわちエージェントのID管理(Identity)・何を許可するかの定義(Authorization)・複数エージェント間の調整(Orchestration)・実行時の行動監視(Runtime Behavior)・継続的な信頼検証(Trust Assurance)を、VulnOpsの自動化設計に組み込む必要がある。