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欧州の社会課題解決型イノベーションと個人データ保護 ~第19回CSA勉強会

日本クラウドセキュリティアライアンス
諸角 昌宏

1月25日に行われた第19回CSA勉強会では、「欧州の社会課題解決型イノベーションと個人データ保護」ということで、笹原英司氏に講演していただいた。今回は、勉強会としては初めて「特定非営利活動法人横浜コミュニティデザイン・ラボ」との共同開催ということで、いつもとは違った交流を行うことができた。

ここでは、勉強会で解説された内容をいくつかトピック的に記述する。なお、内容について笹原氏にレビューしていただいた。

  1. EUにおけるeHealthの考え方
    EUにおいては、イノベーションのベネフィットと個人データ保護のリスクのバランスを図ることが政策目標となっている。EUでは、国境を超えたヘルスケアが日常的なため、複数の国で利用されることを前提としつつ、eHealthによるイノベーションの成果を社会課題解決のためのソリューションとしてパッケージ化して海外に輸出することによって、雇用創出や経済発展につなげようとする考え方が一般的だ。このようなEUの発想は、日本にとって参考になる点が多い。
  2. EUにおける個人データ保護
    EUの方が米国等に比べて、個人データの対象範囲が広く、かつ、厳しくなっている。ただし、あくまでもイノベーションと消費者保護のバランスを取りながら、時代の経済政策と共に変化している。 昨年(2015年)、新たに「EU保護規則」が合意された。従来の「指令」が「規則」に代わったことにより、すべてのEU加盟国に一律適用されるものとなった。ちなみに、「指令」の場合は、EUが定めた共通ルールに基づいて各国が具体的な対応策を決めることになる。これらの動きと同時並行で、IoTやBigDataのセキュリティ/プライバシー保護に関するルール作りも進んでいる。
  3. デンマークの医療
    デンマークは、電子政府/オープンデータ基盤を非常にうまく利用している。高い普及率の電子カルテシステムをベースに、ナショナルデータベースを構築・運用しており、これに基づいた分析データが様々に利用されている。これは、国民共通番号制に基づくデータの収集および利活用を、中央政府と地方政府、市民、企業が協働することで実現しており、その背景には、子どもの時からの教育重視の姿勢がある。デンマークの教育では、社会参加意識を非常に重視しており、市民参加を誘発するように教えられている。たとえば、デンマークで電子投票を行うと90%以上が投票するということである。また、ノーマライゼーションの原則があり、障害者と健常者が区別されることなく社会生活を共にするという意識が徹底されている。このような文化が根付いているデンマークでは、個人データの収集と利活用が全国民参加の上で実現できている。
  4. 日本におけるデジタルヘルスラボ・プロジェクト
    演者が関わっている活動の1つとして、デジタルヘルスラボ・プロジェクトがある。これは、デジタルハリウッド大学大学院と横浜市が協業して行っているもので、「デジタル」+「医療・健康」の分野で起業またはサービス開発を支援し、その「実装」を本気で追究している。通常、ビジネスモデルの検討で行き詰るのは、お金の問題等で実装ができないということが多い。このプロジェクトでは、実装を追求することで企業およびサービス開発を支援していくということである。医療系のサービス開発に際しては、個人情報保護やセキュリティ対策が常につきまとうので、早期から取組を始める必要がある。
  5. CSAは何をやっているか?
    EUとCSAの協業活動として、以下の2つを進めている。

    1. Cloud Security Alliance Privacy Level Agreement WG
      EUのレベルでの個人情報保護のチェックリストを作成し、米国のクラウドベンダーがEUでビジネスを行うためにどうすれば良いかを記述したドキュメントを公開している。これには、従来のセーフハーバー対策も含まれており、今後は「プライバシーシールド」への対応がテーマとなる。
    2. SLA-Ready
      EUの活動の一環として、中小企業向けの振興策としてのクラウド利用に対して、どのようなSLAであればセキュリティが担保できるかの検討を行っています。SLA-Readyについては、以下のCSAジャパンブログで触れているので、こちらを参照していただきたい。 http://cloudsecurityalliance.jp/newblog/2015/02/13/sla-ready%e3%81%8c%e3%83%a8%e3%83%bc%e3%83%ad%e3%83%83%e3%83%91%e3%81%a7%e7%99%ba%e8%b6%b3/

さて、上記のようなEUにおける個人情報の扱いを踏まえて、日本が今後どうなっていくのか。グローバルの視点に立って、我々も考えていく必要がある。また、「Privacy Level Agreement WG」や「SLA-Ready」の内容については、日本にも適用できる部分も大きいので、いろいろと検討を進めていきたい。

以上