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ドイツに学ぶ科学技術政策

日本クラウドセキュリティアライアンス 業務執行理事
諸角 昌宏

今年のCSA Japan Summit 2016(5月24日開催)では、テーマを「サイバーフィジカルセキュリティを支えるクラウドセキュリティ」とし、IoT、Industry4.0、およびそれらを支えるクラウドセキュリティについて、欧米の動向、日本の状況、CSAおよびCSAジャパンがどのように取り組んでいるかを幅広くお伝えすることになりました。Summitに向けて、Industry4.0、はたまたドイツで何故Industry4.0が始まり成功しているのかを知りたいと思ったところ、ちょうど、2月26日の「21世紀構想研究会」において永野博氏の「ドイツに学ぶ科学技術政策」という講演を聞くことができましたのでその内容をレポートする。

  1. ドイツとは
    まず、ドイツという国がどのような状況なのかについて、科学技術の観点から触れました。

    • ハイテク産業の輸出額が着実に伸びている。特に、ミドルテク(中規模の会社の技術)の伸びが非常に高い。これは、Industry4.0が中小企業の輸出を支援する政策、つまり、中小企業が負けないように新技術を支援しているところが大きい。
    • GDPに占める輸出の割合が、ドイツは日本の2.7倍。日本が14.6%なのに対して、ドイツは39.2%。
    • 近代的な大学として、教育と研究を一体的に推進している。これにより、国民国家に貢献できる人材育成を行い、大学が社会における知識生産の最大の拠点になるという新しいモデルを実現している。
    • 首相のリーダーシップ(メルケル首相)で、教育を支援している。研究、イノベーション、創造性のみがドイツの生活水準を維持できるという考え方を持っている。メルケル首相が注目されているが、その骨格を作ったのはシュレーダー首相で、ドイツが悪い時代であった1990年代に「アジェンダ2010」を作成し、2010年を目指した戦略を立てていた。これが、現在のメルケル政権下のドイツとなっている。
    • 研究・イノベーション協約が連邦と州政府で結ばれていて、健全な財政かつ研究/教育への投資が約束されている。
    • ハイテク戦略を2006年から進めている。IoTは、ドイツでは2005年から進められている。2012年になって新ハイテク戦略として「デジタルへ対応する経済と社会」というIndustry4.0イニシアチブとしてスタートし、これがドイツでの最優先課題となっている。最近IoTが騒がれているのに比べて、10年以上前からIoTを促進している。
    • 産学公連携のシステムは世界で傑出している。新しい政策の決定を、政治家と科学者が一緒になって行っている。自分たちが社会を作っているという意識が高い。
    • 国を挙げてPhDを養成している。
  2. 日本への示唆
    上記のようなドイツの状況を踏まえての日本に対する提言として、いくつか挙げられていたが、その中で印象に残るものを以下に記述する。

    • 知的なものへの敬意を示すことが必要ということで、研究/教育に対する充実した投資が必要。また、政策の作成に当たって、政治家と科学者が同じテーブルで協議していくように、自らが社会を作っているという意識ができるようにしていくことが必要。
    • 強いリーダーの存在が必要。ドイツでは、戦後の首相の数が8人で、強いリーダーシップのもと政策を行っている。
    • 社会全体が若手を信頼するという発想をもち、若者を大事にする教育をおこなう。
    • 若い人に外を見る環境、世界を見る能力を植え付けるようにする。
    • 生涯教育ができる体制が必要。IoTでは、産業構造の変化により今まで行っていた仕事自体が変わらなければならなくなる。これに対応できるように生涯教育を整備する必要がある。

以上のように、Industry4.0を着実に進めているドイツには、国として力強い背景があることがわかった。今後の日本を考える上で、多少なりとも参考になれば幸いである。

以上

 

SLA-Readyがヨーロッパで発足

クラウドのSLAをガイドするSLA-Readyがヨーロッパで発足

2015年2月13日
日本クラウドセキュリティアライアンス 理事
諸角 昌宏

クラウドサービスの利用する場合、通常、SLA(Service Level Agreement)に基づく契約を行うことになります。CSAのガイダンスでは、「SLAが利用者に提示された時、サービスとプロバイダに対するサービスレベル、セキュリティ、ガバナンス、コンプライアンスおよび法的責任に対して期待される点が、契約上規定され、管理され、強制される」というように記述されています。したがって、利用者は、クラウドサービスを利用する前にプロバイダが提示するSLAを詳細に確認および理解し、クラウドサービスの利用上問題がないことを確認する必要があります。また、必要に応じてプロバイダと交渉しSLAの変更を行うことも必要になります。しかしながら、SLAを理解することは非常に難しいというのが現状です。特に、中小企業(SME)にとっては、クラウドサービスに対する専門家や知識の不足などから、SLAを理解することが難しい状況です。また、SLAの複雑で誤解を招く記述や、ワンクリックで合意しなければならないことが、中小企業のクラウドサービスの採用の足かせとなっています。

SLA-Readyは、SLAの共通の理解を働きかけ、SLAの標準化や透明性の確保を行っていくために設立されました。これにより、どのようなサービスを利用するかという企業の意思決定や信頼性についての情報を提供していくようです。

SLA-Readyは、ヨーロッパのクラウドマーケットの信頼性を構築することに貢献していくことになるようです。今後の動向に注力していきたいと思います。なお、CSAも、このコンソーシアムのメンバーですので、今後CSAがどのように関わっていくかも見ていきたいと思います。

SLA-Readyの情報は、http://www.sla-ready.eu/ で提供されていますので、今後の動向も含めて参照してください。