SaaS上の機密データの不十分な可視性と脆弱なアクセス制御のリスクと対応

第一回SaaSセキュリティリーグ会議

「SaaSセキュリティリーグ」は、SaaSユーザー企業の実務者同士で情報交換を行う取り組みである。SaaS管理者やセキュリティ担当者を横串でつなぎ、知見交換を行うことで、セキュリティレベル向上に貢献していくことを目的としている。ここでは、「SaaSセキュリティリーグ」が行った第一回会議の内容をまとめて公開する。

2025年10月14日 18:30-20:00 開催

テーマ:SaaS上の機密データの不十分な可視性と脆弱なアクセス制御のリスクと対応

  1. 問題点の概要(引用:「SaaSセキュリティの現状レポート2025年~2026年の動向と洞察」)
    • 企業の63%は機微データや機密データの外部への過剰な共有を最大のリスクとして挙げており、56%は従業員が機微データを未認可なSaaSアプリケーションにアップロードしていると報告している。
    • このようなリスクの主な要因は、効果的でない特権とアクセス管理の実践であり、組織の41%が最小特権アクセスポリシーが効果的に実施されていないと報告している。つまり、ユーザーやシステムが過剰な権限を保持することが多く、データ漏えいや権限の乱用、内部脅威のリスクが高まっている。
    • 人間のアイデンティティに限ったことではなく、生成AIの統合は、新たな複雑性のレイヤーを導入しており、多くの場合、タスクを実行するために、複数のアプリケーションにわたる機密データへの広範なアクセスを必要とする。組織の56%は、サードパーティベンダーやAIを搭載したSaaSツールが、データへの過剰なAPIアクセスを獲得することを懸念している。
    • SaaS のデータフローが一元的に可視化されておらず、SaaS 間の統合が監視されていない。企業の 42% が SaaS アプリケーション全体の機微データの追跡と監視に苦慮している。
  2. ディスカッションのポイント
    • SaaSアプリケーション上のアクセス設定が徹底できていない
    • 最小特権アクセスポリシーが効果的に実施されていない
    • サードパーティベンダーやAIを搭載したSaaSツールに対する過剰なAPIアクセスとなっている
    • SaaS アプリケーション全体の機微データの追跡と監視が不足している

以下、ディスカッション内容をまとめる。

  1. SaaS上の機密データの取り扱い
    • セキュリティ対策を考える前に、対象となるSaaSを明確化
      以下にリストしたように組織ごとに様々なSaaSの位置づけがあるが、一概にこれというものではないことが分かった。しかしながら、組織として対象となるSaaSを明確にすることは、具体的なセキュリティの問題の洗い出し・対策を取っていく上で重要である。
      • 社内の情報を預けるもの、IDのあるものをSaaS/クラウドと定義
      • データの持ち出しを念頭に置いて判断
      • 業務で使うものという括りで判断
      • 有償契約のあるクラウドを管理対象(ただし、無料であっても企業で使うケースもある)

    • 機密データをSaaSに上げることに対する管理の現状
      機密レベルに応じてSaaS/クラウド(ここでは、SaaSだけでなくクラウドとして捉えることが必要)に上げることができるデータとして、どのような基準を設けているかという問題に対して、以下のような意見が出された。
      • 機密データをクラウドに上げることは(極秘であっても)特に妨げてはいないが、機密レベルに応じて承認するかどうかを決めている。機密データの管理については、CASBのスコアベースで評価し、PaloAltoで止めるという方法を取っている。結果、リスクスコアが高いものはクラウドにアップロードできない。
        CASBのリスクスコアによる管理を行っている理由は、単純な仕組みで無いと従業員がついてこれないためである。
      • チェックリストに基づいて許可するかどうかを判断している。まずAssuredで評価し、それから独自のチェックリストに基づいて評価し許可を出している。技術的には、Zscalerのサービスでアクセス制御し、Web Filteringで制御している。
      • データ区分を設定して、データの重要度に応じてアクセスを制限している。IPアドレス等により、アクセスできる拠点、人等を管理する方法をとっている。
      • 使用できるSaaSを限定し、申請に基づいて評価している。技術的な管理は、SASEおよびCASBで実施している。

        各組織とも、SaaS/クラウドにアップできるデータに対する基準やチェックリストを設けて管理している。技術的には、CASBで管理し、その他の製品を使って制御していることが多い。チェックの仕方が煩雑だとうまく運用できない、特に部門主導のSaaSにおいては管理が難しいということもあり、できるだけシンプルな管理方法を取っている。

    • クラウド上の機密データの管理(過剰な外部との共有になっていないか?)
      機密データの外部への過剰な共有による情報漏洩が大きなリスクであることが言われているが、実際どのような状況なのか、また、どのように管理しているかについて、以下のような意見であった。
      • 部署の使い方(外部のゲストユーザの状況、退職者管理等)を、あらかじめ作成したチェック項目に基づいて管理している。また、棚卸、監査のタイミングで再チェックし、是正処置を実施している。
      • O365は外部と共有できないようにしている。BOXは共有に使っているが、ログを監査し対処している。
      • 外部だけでなく社内にオープンにされているケースが多いのも問題である。グループ内に閉じておかなければならない情報が共有できてしまっている(人事情報、パスワードなど)。たとえば、Sharepointが誰でも見れる状況になっていたりする。これは、AIの利用によりさらに問題となってきており、本来共有できない情報をAIが取り込んでしまう問題がある。

        以上のように、この問題に対しては基本的に管理的な対策に頼らざるを得ない状況のようである。しっかりした管理と定期的な監査・是正が求められる。

    • 最小権限アクセスポリシーが効果的に実施されていない
      これは、SaaS/クラウドに限らずオンプレでも同様であるが、ここでは、SaaSに限定して意見を出していただいた。
      • SaaSに対しては効果的な実施方法は無いのが実情である。オンプレであれば専門家が権限付与する時に申請ベースで動くことができ、過剰権限があれば運用において管理できる。
      • クラウドの場合、ツールの利用が必要である。SSPMであれば、過剰権限、SaaSに対する設定の確認、外部に公開されているリンクの検知などを行うことができる。SSPMによる可視化(公開設定管理など)もまた有効である。ただし、利用はまだ一部にとどまっている状況である。
      • アクセス権の付け間違いはどうしても発生する。データの管理者(SaaSの場合、特に部門)がそもそも理解できていないのが問題となるケースが多い。データをアップロードする人が一般事務の人だったりして、オンプレの慣習通りにアップロードしてしまい、クラウドにおいて問題となる。ITの専門家がいない部署が運営していて、設定がちゃんとしてない可能性があり、セキュリティ部門ではきちんとできているかを管理しきれない。
      • ツールの利用が考えられる。脅威インテリジェンス、アタックサーフェス用のツールで、公開されている情報を検知することが可能である。Avepointのようなツールが出てきており、うまく使うと有効であるという話もある。
      • ポリシーの教育は必須である。各拠点の担当者、エンドの利用者向けの教育を行っている。

        以上のように、効果的な管理は難しい状況ではあるが、SSPMやその他のツールを利用した技術的対策が有効であるので、検討していただくことが良いかと思われる。

    • 他社との共有リスク
      調査レポートの課題としては上げられてはいないが、クラウドストレージ等を使って他社と情報共有していることも問題になる場合がある。他社との共有は、会社間での情報のやり取りを行う場合、セキュリティ的にも有効な手段であるが、反面、利用者が誤って機密データを上げてしまい、それが他社と共有されてしまうという問題がある。この問題に対して現在取られている対策は以下である。

      • 外部の委託業者との共有、他社のBOX等の共有を使うケースは、基本禁止している。対策としては、管理を厳しく行っている。
      • この課題は、CASBで管理できる(他社と共有してはいけない機密情報をクラウドに上げるのを制限する)が、自社が管理している共有サイトは管理できるが、他社が管理しているサイトだと難しい。

        この問題は、クラウドストレージの利用が禁止される典型的な例であり、なかなか管理が難しい。引き続き、検討が必要なものと考えられる。

  2. その他
    以上の議論とともに、以下の3点についても検討が必要であるとの意見があった。
    • データセキュリティの観点
      • データの機密性を従業員が適切に判断するのが難しいケースが多い。そのため、社内ポータルに上げてはいけない極秘データを簡単においてしまったりするケースがある。機密区分を人に頼るのではなくAIによって自動的に判定するようなことができるとこのような問題は少なくなるかと思われる。
      • DLPで制御させるためのタグ付けに対して限界を感じている人が多く、もっと踏み込んだ対策が求められている。DSPMには「AIによるファイルの機密区分の判定」などの機能があり、これが有効なツールとなる可能性がある。
    • Need-to-knowが分かる、あるいは、理解できる仕組み
      • 読みたい人がアクセス権を要求できる仕組みの方が良いのかもしれない。現状は、データオーナーの責任においてアクセスできる人を決めているが、これを読むべき人が自動的にNeed-To-Knowになるような仕組みができると良いかと思われる。
      • Need-to-knowを徹底できる仕組みとしてワークフロー化する方法では、共有グループのアクセス権の設定に対して承認を行うプロセスを作ることができる。
    • ブラウザのロギングの強化
      • ブラウザのロギングがしっかりしていれば管理しやすくなると思われる。独自のアプリ以外はブラウザ経由なので、しっかりしたログを出してほしい。これができると、ログ分析する時に非常に有効になると思われる。現状は、アクセスログぐらいしか出されていない。

  3. まとめ
    今回のSaaSセキュリティリーグでの議論を以下の2点にまとめる。
    • SaaS上の機密データの取り扱いの問題は、管理的対策と技術的対策をうまくミックスさせて行うことが必要と思われる。チェックリスト等の整備、定期的な見直しとしての監査/是正を愚直に進めることが必要になる。CASB等のツールによる技術的対策は、管理的対策を補完する形で有効に利用できると思われる。
    • 最小権限アクセスポリシーが効果的に実施されていない問題は、ツールの利用が有効である。また、ポリシーの徹底のための教育は継続してきちんと行っていくことが求められる。

以上

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