「原則と現状のはざま」をCASBで対策できないか
CASBワーキンググループ・リーダー
上田光一
今回は趣向を変えて、CASB WG外の識者の意見を参考に筆を進めたい。
取り上げるのは、CSAジャパンの連携会員であるJNSAが発行するメルマガにて寄稿された「原則と現状のはざまで」と題するコラムである。
著者は株式会社Preferred Networks CISO, セキュリティアーキテクトを務めておられる高橋氏である。
ここで高橋氏は、IT・セキュリティに関わる原則(ポリシーやガイドライン等)の現状との乖離を指摘している。
一般的なセキュリティアーキテクチャ、セキュリティポリシーは、そもそも10~20年前に確立した原則に基づくことが多い。ところが今やクラウドサービスに代表される最新テクノロジーについて、これを採用しない(あるいは大幅遅延)ことは、逆に事業運営の観点で経営リスクともなる。
ITシステムがクラウド化することで、ベンダー、代理店やSIer、ユーザー(企業)の責任分界点が変化し、特にユーザーに求められるスキルが変わっている。
こういった変化を見落としてしまうことにより、セキュリティの原則と現状に乖離が発生しているのではないかというご指摘である。
3つのクラウドアーキテクチャ(IaaS、PaaS、SaaS)のそれぞれの責任境界については、CSA発行のガイダンスはじめ、クラウド利用の原則として良く取り上げられるところであるが、高橋氏はユーザー企業の立場によるリスク負担について言及しておられる。
さてこの状況にCASBが何か貢献できないか、いくつかケースを想定してみた。
・あるクラウドサービスが、信頼に足るかどうかを判定
(自組織の要求事項を満たすかどうかの判断)
・特定のクラウドサービス利用状況についての詳細モニタリング
・その中でも不適切と思われる操作を強制的に停止・中断
こういったケースではクラウドサービスの採用においてCASBが一定のリスクヘッジを実現し、クラウド活用を促進することができるように思われる。
以下に全文を引用するのでぜひご一読頂き、各組織においてどうなのか一度ご検討、ご判断を頂ければ幸いである。
なお、本稿の引用を快諾頂いた高橋氏、JNSA事務局にはこの場を借りて御礼申し上げます。
【引用元】
JNSAメールマガジン「連載リレーコラム」バックナンバー
www.jnsa.org/aboutus/ml-backnum.html
【連載リレーコラム No.132】
原則と現状のはざまで
株式会社Preferred Networks CISO, セキュリティアーキテクト
高橋 正和
私が強く印象に残っている発言に、「IT・セキュリティ部門は提案を止めるだけ
なので、提案の際には、IT部門やセキュリティ部門ではなく、事業部門に提案を
すべき」というものがある。衝撃的な話ではあるが、企業等の組織において、
IT部門やセキュリティ部門が邪魔になっている。本稿では、この要因と考える、
IT・セキュリティに関わる原則(ポリシーやガイドライン等)の現状との乖離
について取り上げたい。
これまで、20年近くベンダー側の立場でセキュリティに関わってきたが、昨年
10月からユーザー企業のセキュリティ担当として働き始めている。働き始めて
みると、大小のセキュリティ課題が常に存在し、セキュリティ担当は、会計担
当、法務等と同様に必要不可欠な専門職であると強く感じている。
日々、多様な判断が求められるが、十分な知見が得られないまま判断せざる得
ない場合も少なくない。適切にセキュリティ業務を行うための原則の重要性を
認識する一方で、原則と現状の乖離が深刻な阻害要因になることも実感してい
る。
原則と現状の乖離の要因として、PDCAが「Plan通りにDoが行われていることを
Checkし、必要なActを行う」として運用され、Planのチェックを行わない状況
がある。このため、優れた新たな施策があっても、これまでの原則に従い採用を
見送ることで、原則と現状の乖離が生じていく。原則の劣化を防ぐためには、
CIA(Confidentiality, Integrity, Availability)に基づいたリスク分析では
不十分で、事業リスクに基づいた「新たな施策を採用しない(事業)リスク」
についても分析する必要がある。
新たな施策の代表的な例としてクラウドサービスがある。ベンダー側の立場で
クラウドファーストという言葉を使ってきたが、市場は明らかにクラウド
ファーストになっており、新たなクラウドサービス利用の相談を頻繁に受けて
いる。その際に、セキュリティ対策状況分析を代理店に頼りたくなるが、日本
に代理店が無い場合や代理店経由では適切な回答が得られない事があり、何よ
りも、代理店に頼っていては、すぐに使い始めたいという社内の要求に応える
ことができない。結局のところ、自分でWebや試用版を使って確認し判断する
ことが求められる。ITシステムがクラウド化したことで、ベンダー、代理店や
SIer、ユーザー(企業)の責任分界点が変化し、特にユーザーに求められるス
キルが変わっている。この変化を見落とすことが原則と現状の乖離の要因と
なっている。
原則と現状の乖離の問題については、ふたつの取り組みを行っている。ひとつ
は、JNSA CISO支援ワーキンググループの活動である。活動をはじめて既に2年
が経過してしまったが、本年度中(2018年3月)のドキュメント公開を目指し
て作業を進めている。
合わせてJSSM(日本セキュリティマネジメント学会)の、学術講演会や公開討
論会でこのテーマを取り上げ、有識者の意見を伺い議論を進めており、3月17日
に開催する公開討論会でも、このテーマを取り上げていく。
第12回 JSSMセキュリティ公開討論会のお知らせ
http://www.jssm.net/wp/?page_id=2880
近年求められる情報セキュリティは、ITや経営と密接な関係にあり、その背景
には、IT環境の大きな変革がある。しかし、セキュリティ対策は10~20年前の
IT環境が前提であることも少なくない。
現在の経営やITに沿ったセキュリティ対策を提案し実践していくことが必要だ
と感じている。
連載リレーコラム、ここまで。
<お断り>
本稿の内容は著者の個人的見解であり、所属企業・団体及びその業務と関係
するものではありません。