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第8回 クラウド利用者会議 レポート

8回クラウド利用者会議 レポート

20178月30
CSAジャパン 諸角昌宏

 8回クラウド利用者会議では、CSAジャパンのCASBワーキンググループ(CASB WG)から、上田氏、露木氏、高岡氏にご講演いただいた。会議は、823()に開催し、クラウド利用者を中心として8名に参加いただいた。
今回は、「CASBはクラウドセキュリティを救えるか」というテーマで、CASBの事例を中心に講演していただくとともに議論を行った。

 まず、マクニカネットワークスの上田氏からCASBのおさらいということで、概要の説明を行っていただいた。

最初に、CASBの基本である4つの柱(可視性、コンプライアンス、データ保護、脅威からの防御)について説明していただいた。また、ガートナーが、CASBがクラウド環境におけるセキュリティ・ソリューションを補完していく可能性があるということで、SWG, SIEM, 暗号化, IDaaS, DLP, EMM, WAM, NGFWなどが挙げられていた。しかしながら、ガートナーも認めているように、実際にはこれらの融合はあまり進んでおらず、CASBは独立した製品として維持されているようである。なお、ガートナーは、2018年までに60%の企業がCASBを導入すると言っており、これは変わっていないようである。
CASBの日本国内での認知度も確実に上がっているということで、実際の導入が進んでいるということが説明された。CASBの導入に当たっては、Top Downのアプローチが多いとのことである。

 次に、SkyHigh Networksの露木氏より、主な導入事例の説明が行われた。SkyHighでは、現在、日本において23社の顧客、世界的には650社で導入されているということで、CASBが確実に導入が進んでいるということを裏付けるデータとなっている。

最初の事例として、55,000人の製造業における「大規模シャドーIT対策」が紹介された。この会社では、クラウドアクセスポリシーを作成する(既存のものはあったが、可視化が欠如していた)ために、より実用にあった形にすることが求められていた。ポリシーの作成にコンサルティングファームを利用すると、非常に高価になる。また、シャドーITをいきなり止めることは、企業においては大問題になる可能性がある。いわゆる、止めてしまう危険というものも考慮して行う必要があった。CASBを使うことで、この要件を満たしたクラウドセキュリティポリシーの作成および実際の運用が可能になったとのことでした。

その他の例として、BOXの管理、特に監査目的として導入したケース(ある部門がBOXを使用していたため、会社として全体的な監査のために導入)、Office365をすべてクラウド化した場合に、CASBで監視を行うことで、全世界のOffice365を見ることができるようになったケース、SalesForceに保存されたデータをCASBで暗号化するケースなどの紹介が行われた。

 最後に、シマンテックの高岡氏より、CASBの潜在するターゲットとして、以下の4点が挙げられた。ちなみに、シマンテックでは、米国におけるCASBのビジネスとして、昨年度900%の成長があったということで、非常に大きなポテンシャルのあるマーケットとみているとのことであった。

  • 2つ以上のクラウドサービスを正式に採用している企業。これは、CASBで一意のセキュリティレイヤーを作ることができるというメリットがある
  • クラウドアプリの正式な利活用を検討している企業
  • オフィス外でのクラウド活用(在宅、モバイル)
  • GDPR。データの棚卸と継続的なクラウド活用。特に、シャドーITによるGDPR違反を防いでいく。

また、CASBをニーズの観点から見ていくと以下の3点が考えられるとのことであった。

  • 業務アプリのセキュリティ管理としてのシャドーITの可視化。
  • インライン型に対して、業務用SaaSに対する対策としてAPI型の利用。
  • SOCとの協調等の包括的な管理として、自社運用ではなくMSSP的な利用。

最後に、CASBへの期待値として、以下の5点を挙げている。

  • 機密情報の自動認識
  • データ共有先の記録
  • シャドーなユーザ、怪しいアカウントの調査
  • クラウドアプリの利用状況の監査
  • 個人アカウントやBYOD端末に対する制御

 さて、以上の説明に基づいて、参加者からの質問および議論が行われた。

まず、CASBが行うクラウドのリスク評価について、どのように判断すべきかということが議論になった。CASB製品では、クラウドサービスに対するリスク評価を行い、安全なサービスなのか、あるいはそうでもないサービスなのかについて、利用者が判断できるようになっている。ただし、リスクをどう判断してクラウドサービスを使っていくかは、利用者の判断となる。リスクの各項目に基づいて判断するのか、あるいは、総合点で判断するかは、あくまで利用者次第ということになる。これは、第1回クラウド利用者会議で議論された内容と重なるが、CASBによるリスクの透明性に対して、利用者がどのように判断するかという、利用者のリテラシが求められるところである。CASBのリスク評価は、非常に頻繁に更新されており、通常は毎日行われる。事業者からの回答が必要なものでも、最低でも3か月に1回は更新されているとのことである。日本のサービスについても、以前はなかなか回答が得られなかったが、最近はほとんど回答が返ってくる状況となっており、リスク評価については十分信頼できるものと考えられる。

次に、GDPRCASBについての質問が出た。GDPRで我々が非常に影響を受ける域外移転に関しては、CASBで管理できるわけではないが、域外移転データの管理に関して、CASBを監査に利用できるということである。

それから、上記で紹介された事例等を見ていくと、CASBの導入は大企業に限られているのではないかということで、CASBを中小企業が積極的に利用できるようにするにはどうしたらよいかという議論になった。CASBというと、どうしてもコストの問題があり、中小企業が導入するのは厳しいということである。これについては、CASBとしての展開というよりは、中小企業向け支援サービスという展開が始まりつつあるということであった。キャリア系が進め始めている CASB as a Service により、中小企業でもCASBが利用できる道が開かれていく可能性があるということであった。

 以上のような会議となったが、CASBがクラウドセキュリティを守っていくソリューションとして、これから大きく伸びていくというのは間違いないようで、特に、クラウドアクセスポリシーの作成の観点からは、CASBが非常に強力なツールとなっていくようである。クラウドの利用については、もはや「セキュリティが不安なので導入には慎重」という時代ではなく、「クラウドを利用することを前提にセキュリティ対策を考える」という時代になっている。その中で、セキュリティを統一的に管理できる、まさにブローカーとしてのCASBは、重要な役割を担っていくということを強く感じた。今回、日本のCASBを代表する方々のお話が聞け、また、直接議論することができたことは非常に有意義であった。また、これからのCASB WGのアウトプットにも期待していきたい。

 

以上

 

 

今後のクラウドの動向 ~ 第5回クラウド利用者会議

5回クラウド利用者会議 レポート

2017222
CSAジャパン 諸角昌宏

 5回クラウド利用者会議では、株式会社BCN週刊BCN編集長の畔上文昭氏に講演していただいた。会議は、210()に開催し、クラウド利用者を中心として10名に参加いただいた。ここでは、会議の概要について記述する。
今回は、今までのクラウド利用者会議とはちょっと趣を変え、今後のクラウドの動向に対して、どのように取り組んでいくのかという点を中心に議論を行った。 

まず、畔上氏から、IoTとクラウドの親和性の高さについて説明された。IoTと言えばクラウドということで、以下の5つの理由からIoTではクラウドが必要になっているとのことである:

  • データ量が読めない
  • 拡張性を確保したい
  • 素早く展開したい(特に、グローバルに)
  • チャレンジ領域のインフラとして有効
  • ダメなら撤退が容易

また、IoTとクラウドにより、地方の活性化が図れるとのことである。地方には工場が多く、IoT -> クラウド -> ビッグデータという流れで、地方において有効活用されていくとのことである。

さて、2017年のクラウドマーケットの動向(特にIaaS/PaaS)であるが、まず海外ベンダーの動向というか方向性について以下のようにまとめている。

  • AWS: エンタープライズのクラウド化に関する議論はもはや終了。多くの基幹システムがAWS上で稼働している(SAP HANAのように)状況で、「エンタプライズごとクラウド」という流れを作っている。
  • Azure: デジタルトランスフォーメーションがクラウドの存在を高めるという観点から、企業のデジタル化を推進している。IoTAIで存在感を示している。
  • IBM: コグニティブとクラウドの会社というイメージを作っている。Watsonを始めとする付加価値が大きな競争力となっている。「クラウドネイティブ」でない一般企業の需要に応えるようにしている。
  • Google: ビッグデータ解析、マシンラーニングで差別化を図っている。
  • Oracle: オンプレでのSI技術をそのまま生かせるクラウドということで、価格勝負に向かっている。しかしながら、Oracle自身の中でのクラウド率が低く(グローバルで10%)、なかなか難しい状況となっている。

以上のような状況であるが、AWSAzure2強の状況は崩せないだろうというのが一般的な見方となっている。 

次にAIとクラウドについてであるが、今後AIerというAIをビジネス化するSIerが生まれ、ITのゴールがAIという時代になる。その時、クラウドがAIエンジンを提供する時代になる。また、IoTとクラウドのAI活用が進み、「エンタープライズAIoT」というのが実現される時代になるようである。そのような状況で、AIとクラウドについて考えると、SaaSが面白いということになる。SaaSベンダーは、すでに(これからも)大量のデータを持っており、これをAIに活用することでSaaS自体を便利にしていくことができる。SalesforceEinsteinは、SalesForce自体を使いやすくすることに貢献している。したがって、パッケージベンダーは、SaaSに行かないと乗り遅れることが予測される。

また、RPARobotic Process Automation)のお話があった。いわゆるAIが「人間の代わりになるロボット」を求めているのに対して、RPAは「人の代わりに働くロボット」を作っていくものである。既存のシステムには手を加えずに、操作する人間をロボット化していく。既存のシステムを使うことで、AI化する必要がないし、操作する人間をロボット化することで、いわゆる「自動運転」というものはいらなくなる。人の代わりにロボットが動くことで、人的なエラーがなくなるとともに、圧倒的な速さで処理を行うことができるようになる。 

最後にまとめとして、以下の5点を挙げた。

  • IaaS/PaaSは、各社の戦略が明確化されてきた
  • クラウド2強時代が続く
  • AIoTが実用段階に入ってきた
  • AIoTとのコラボが注目されるRPA
  • 人ロ知能(2つ目の文字は、「くち」ではなく「カタカナのロ」)が来るかも。

クラウドは、単なる基盤の置き換えではなく、新しいITの領域へのデジタルトランスフォーメーションを導くものであるということを、改めて強調された。

さて、畔上氏の講演に続いて会議での議論となった点について以下に記述する。 

まず、クラウド2強時代やIaaS/PaaS各社の戦略の明確化を受けて、国産クラウドが今後どうなっていくのかという点について議論が行われた。結論としては、国産クラウドが、IaaS/PaaS市場で勝負するというのは考えられないということであった。その状況で、国産クラウドがどのようにビジネスを組み立てていくかというと、それはSaaS市場ということになる。国産クラウドとしては、①自社でクラウドインフラも持ちその上にサービスを展開していくか、②AWS/Azure等のクラウドインフラを使ってその上にサービスを提供するか、というどちらかでSaaSビジネスを拡大していく方向に向かっていく。

また、クラウド2強のように欧米のクラウドに依存してしまうことに対するリスクの議論も行われた。ビジネスリスクはある程度やむを得ないとしても、カントリーリスクをどうするのかが問題となる。たとえば、米国の法律に縛られてくる可能性や安全保障上のリスクをどうするかなど、日本として考えていかなければいけない課題が多いということになった。国策を取る必要があるかどうかも含めて、考えなければいけない内容となった。

カントリーリスクという点で、IPAが始めた産業サイバーリスクセンターの議論になった。ここでは、サイバー攻撃を防ぐ人材育成のための新組織を立ち上げ、そのアドバイザーに米国家安全保障局(NSA)のアレキサンダー元局長を迎えた。セキュリティ技術者の養成として、非常に注目される活動である。人材育成と合わせて、武器となるべく国産クラウドや国産セキュリティベンダー等の整備をどうするかも合わせて進めていく必要があるということである。

以上

 

セールスフォース、SaaS/PaaSセキュリティ ~ 第4回クラウド利用者会議 

4回クラウド利用者会議 レポート

201612月25
CSAジャパン 諸角昌宏

4回クラウド利用者会議は、セールスフォースから高橋悟史氏、成田泰彦氏に講演していただいた。会議は、1215()に開催し、クラウド利用者を中心として10名に参加いただいた。ここでは、会議の概要について記述する。

セールスフォースからは、SaaSIaaSの違いを中心に説明していただいた。まず、最も重要視しているのがTRUSTということで、実績として今まで一度も情報漏えいやハッカーの侵入を許していないということが挙げられた。信頼というのをどのように見せるかは非常に難しい問題であるが、実績もさることながらセールスフォースのセキュリティに対する取り組みをみると明白であるということができる。また、この大企業レベルで信頼されるシステムをそのまま一般にも提供できているということで、すべての利用者に同じレベルの信頼を与えることができるというクラウドの優位性を示している。このセキュリティを支えているのが、セキュリティ対策に対する技術面への投資だけでなく、人間系への投資、つまりセキュリティの専門家への投資を積極的に進めているということである。これは、単純に専門家の数を増やすということではない。セキュリティの専門家として本当に必要となるスキル、また、開発者に対するセキュリティのトレーニング等をきちんと実施している。

さて、IaaSとの違いという点からセールスフォースを見てみる。

まず、1個のデータベースにすべての顧客データを保存している、いわゆるマルチテナントDBという形を取っている。これを個別のデータベースと比較すると、まず重要なのが、個別DBの場合には管理者が多数必要になるという点である。セキュリティの対応を一人の人間が多く持つようになるとそれだけリスクが増大するし、管理者による違反の可能性も高まってくる。マルチテナントDBでは、物理境界ではなく論理境界をどのように守るかという点が問題となるが、技術的な対策と合わせて人的な対策としての職務の分離(データの操作者とDB管理者の分離など)をおこない、論理境界を技術的/人的の両面からサポートしているということである。なお、これらのセキュリティ対策はアプリケーションサーバ側で対応しており、ユーザのIDとオブジェクトのIDがアプリケーションでしか分からないしくみを取っている。これにより、管理者に対してデータを隠ぺいすることが可能になっている。アプリケーションサーバ側で様々な対応を行うということは、データベースに対するベンダーロックインを回避するという点からも重要であり、ビッグデータ等で使われている様々なデータベースへの対応という観点からも重要になってくる。

次にソフトウエアの観点から見ると、単一ソフトウエア、単一バージョンの本番システムを実現している。常に最新の1つのバージョンのみを提供することで、信頼性および高いセキュリティを提供している。また、システムの状況をホームページですべて公開している。これにより、透明性および稼働性を実現している。監査に関しては、年2回の第三者監査を、立ち入り監査を含めて実施している。また、脆弱性診断を年4回実施しており、かつ、都度、診断に使う業者を変更して行っている。これらの観点から、ソフトウエア/サービスおよびシステムの信頼を提供している。

さて、このようなセールスフォースの信頼に対する取り組みを受けて、利用者とのディスカッションについて以下に述べる。

まず、セールスフォースが信頼性の高いシステムであること、また、高いセキュリティを保っていることは明らかであるが、そのような状況において「利用者側のリスク」というものが何になるかということである。これについては、クライアントのセキュリティはセールスフォースでは対応できないので、利用者側できちんと管理する必要があるということになる。特に、クライアントの乗っ取りについては十分な対策を取る必要がある。

次に、AWSとの連携の話についてのディスカッションになった。セールスフォースは、もともとインフラを自前で提供している。自前で提供することで、サプライチェーンに頼らず独自にセキュリティを維持できるという強みを持っていた。その状況でAWSと連携するようにした理由は、あくまでデータセンターとしてのスピードとコストのためであるとのことであった。特に、IoT、ビッグデータ、AIのように大容量のデータを扱うものについては、AWSのスケーラビリティが必要になってくる。また、セールスフォースが提供する新しいサービスが、もともとAWSで作られているような場合には、そのまま提供するとのことである。そうすると、AWSを使った場合のセキュリティ対策をどうするかということになる。一般的に、IaaSのセキュリティ対策は利用者側の作りこみが求められる。例えば、すでにAWS上でサービスを提供しているファイルフォースでは、暗号化等を含めて独自に実装しているということである。セールスフォースでも、現段階ではAWSのセキュリティサービス機能は使用せずに独自に作りこんでいるということである。今後、どのような形でAWSのセキュリティサービスが利用されていくのかは興味深い点である。

最後に、マイナンバーに対するセールスフォースの対応についてディスカッションとなった。マイナンバーについては、セールスフォースとしては法律の要件を満たすことはできないということを明確にしている。パートナー(PaaS上にアプリを構築している)と利用者の間の契約として、マイナンバーへの対応をどうするかを考えなければならない。クラウドプロバイダとしては対応しきれない日本国内の問題ということになる。これは、前回のクラウド利用者会議で問題となった、EUの個人データをクラウド内で自由に移動できる(セールスフォース、AWSAzureが可能)にもかかわらず、日本国内で保存や検索を行うことができないという点があったように、グローバルに展開しているクラウドに対する日本の問題として見ていく必要がある。

セキュリティに関しては最先端を行くセールスフォースということで、非常に明快な説明をいただき、また、分かりやすいディスカッションを行うことができた。非常に高いセキュリティレベルを維持しながら、セキュリティに関わる人間の数はそれほど多くない(具体的な数字は出ていない)ということで、セキュリティ面でのクラウドの優位性というのを改めて感じることができた。

以上

 

日本型クラウド利用について ~ 第2回クラウド利用者会議

第2回クラウド利用者会議 レポート

2016年8月22日
CSAジャパン 諸角昌宏

第2回クラウド利用者会議は、クラウド事業者としてユニアデックス株式会社様をお招きし、クラウド利用者を中心とした11名にご参加いただき8月4日(木)に開催した。ここでは、会議の概要について記述する。

まず、ユニアデックス様が提供しているU-Cloud IaaSサービスについて説明していただいた。U-Cloud IaaSでは、所有と利用を適材適所で組み合わせた、 ハイブリッド型の企業情報システムを提供している。これにより、どうしてもクラウドを自社で所有したい場合とクラウドサービスを利用する場合との両方の要件を満たしている。また、U-Cloud IaaSを特徴づけているのは、マネージド型クラウドで、AWS等のセルフサービス型クラウドと比較して以下の特徴を持っている。

  • 運用監視、セキュリティなどをオプションで提供している
  • 障害対応など、クラウドサービスチェックリストに基づく実証報告を行い、サービスレベルを高めている

これにより、企業基幹システムをクラウド化する場合に求められる要件である、 高いサービスレベル、強固なセキュリティ、きめ細やかな 導入支援/運用サービスを提供することが可能になっている。そのほか、マネージド型とセルフサービス型の比較は以下を参照していただきたい(ユニアデックス様資料より引用)。

uniadex

さて、会議ではマネージド型クラウドに対する様々な質問が上がった。運用監視について、SEが要件を聞いた上で構築を行うということがクラウド環境で本当に必要なのかどうか、また、利用者はそこまで支援してもらえないとクラウドが使えないのかとういう問題提起がなされた。また、クラウドサービスチェックリストに基づく報告に意味があるのかどうか、特に各種ガイドラインで示されている内容で十分なのかどうかが議論された。たとえば、FISCのガイドラインを見ると、リスクの管理すべき項目をチェックしているが実装のレベルは求められていない。したがって、準拠しているかどうかの粒度は違ってくる。そもそも、準拠しているかどうかという質問自体がおかしく、○×ではなく内容の説明が必要である。利用者は、中身の精査を行うことが必要で、利用者の企業の基準に合っているかどうかをきちんと判断することが必要である。

さて、今回の会議で大きなポイントとなったのは、日本においてはマネージド型クラウドが必要なのかどうか、また、マネージド型クラウドでないと日本の利用者はクラウドを利用することが難しいのかどうかという点である。つまり、マネージド型クラウドが日本独自のクラウド利用形態なのかどうかということである。

グローバルにクラウドの導入を行っている企業では、導入時に、海外がイニシアティブをとっているところではセルフサービス型、日本がイニシアティブをとっているところはマネージド型となっているケースが多いようである。そのようなケースを考えると、海外ではセルフサービス型クラウドが利用され、日本ではマネージド型クラウドが利用されているのはなぜかという話になってくる。その一つの状況が、企業におけるITのリテラシである。海外においてはIT部門に所属する人の70%以上が技術に詳しいエンジニアであるが、日本の場合はおそらく20%以下であろう日本においては、80%以上が外注に出している状況である。このような状況で、セルフサービス型を使った自前の実装・管理は成り立たないと言わざるを得ない。(注:ここに出ている数値は、客観的に統計データとして出ている数字ではなく、あくまで会議参加者が把握あるいは推測している内容である)。。

また、不正競争防止法があり、経営秘密に対する安全管理処置が必要になる。クラウド業者の選定に当たっては、全体としての安全措置が確保されている必要があるため、委託先の守秘義務の整備、ファシリティ対策、不正アクセス対策等を行っていくことが必要になるため、どうしてもマネージド型が必要になってくる。また、日本でAWSを使っている場合でも、ほとんどパートナーが面倒を見ており、日本の利用者が裸でクラウドを使うことはありえないとのことである。

以上のような状況ではあるが、今後この状況が変わっていく動きもある。それは、ビジネスのスタートアップ企業が増えてきている中で、ITサービスをオンプレで賄うことができなくなってきているためである。また、既存の企業においても、スタートアップ企業との競争に勝っていくためにはIT投資を抑えるための取り組みとITリテラシの向上の取り組みが進んできているということである。これらが組み合わさって、海外の企業の考え方や利用の仕方が促進されてきている傾向が見られる。

一方、マネージド型クラウドのベースにあるSIerという考え方は、日本独自というわけではなく、インド、韓国等でもSIer文化が出来上がっているとのことである。マネージド型クラウドは、決して日本独自のクラウド利用形態ということではなく、セルフサービス型クラウドとマネージド型クラウドでそれぞれ利点を生かしつつ共存していくということが言えると思われる。

以上

 

SaaS環境のクラウドセキュリティについて ~第18回CSA勉強会

日本クラウドセキュリティアライアンス 業務執行理事
諸角 昌宏

12月16日に行われた第18回CSA勉強会では、SaaS環境のクラウドセキュリティについてということで、セールスフォース・ドットコムの高橋悟史氏に講演していただいた。関心の高いテーマということで、多数の申込者があり、また、質疑も活発に行われて有意義な勉強会になった。また、SaaSだけではなくPaaSにも焦点を当てたクラウドセキュリティということで、非常に幅広くカバーしていただいた。

ここでは、大きく4つの点(プラットフォームセキュリティ、信頼性、セキュリティ管理機能、透明性)で勉強会の概要を説明する。

  1. プラットフォームセキュリティ
    セールスフォース・ドットコムでは、インフラ、ネットワーク、アプリケーションのすべての層においてセキュリティ対策を施している。インフラ、ネットワークでは、セールスフォース・ドットコムがセキュリティ対応をできるように24時間365日で管理を行っている。
    アプリケーションにおいては、シングルコードによる高い品質を維持し常に最新のものを使用することでセキュリティレベルを高めている。
    また、信頼を確保するために、年間数千億円の投資を行っており、外部の監査も定期的に受けている。
  2. 信頼性
    セールスフォース・ドットコムが一番強調しているのは信頼性である。稼働率はともかく、今まで一度もセキュリティ侵害を受けたことがないということはすごいことである。
    また、データのミラーリングやグローバルのデータセンターを用いたバックアップサイトを運用することでデータの可用性を高めている。
    バックアップサイトを日本に作る計画も進んでおり、これにより法域の問題やデータセンターへの立ち入り監査の問題に対応できるようになる。
    さらに、大規模マルチテナントであることから、作業できる要員の集中化を実現している。データセンターの運用に携われるのは信頼のおける人間のみとしており、プロバイダの人的な問題にも対応している。
  3. セキュリティ管理機能
    二要素認証、シングルサインオン(SAML2.0およびOpenID Connectに対応)、および、IDプロビジョニングによるID管理の安全化を行っている。
    データの暗号化については、鍵管理がサーバ側になっているが、SalesForce Shieldというオプションの暗号化機能を使うとサーバ内に鍵を保存することなく、必要なときにのみ鍵が生成されることになる。クラウドにおける鍵管理の原則は、利用者側で鍵を管理することであるが、それを実現するための1つの方法となっている。また、HSMによる厳重な鍵管理も行われており、非常に高度な暗号化と鍵管理を実現している。
    マルチテナントデータベースのセキュリティ対策として、テナント(利用者)ごとのテーブル構造が分からないようにしている。これは、メタデータによりテナントごとのマッピングを行うことで、自分のデータは自分しか見えないようにしている。これにより、データベース管理者がテーブルごとデータを抜き出したとしてもデータが漏洩することにならないようなセキュリティ対策が施されている。
    ネットワークについては、TLS1.2+AES256に対応した安全な通信を行っている。また、PCIDSS 3.1へのコンプライアンスとして、来年にはTLS1.0の接続をシャットアウトする予定とのことである。これは、利用者によっては問題になる場合もあるが、より安全なネットワーク環境の提供を行うということで進めている。
    データセンターの運用として、データセンター内にサーバにログイン可能な環境はなく、すべてリモートで運用を行っている。これにより、データセンター内で問題が起こらないように対策を取っている。また、データベースまでアクセスできる要員は少数の従業員のみとしている。
    さらに、社内にEthical Hackingチーム(redチームと呼ばれる)があり、ハッキングおよびペネトレーションの調査等を行っている。これは、独立した組織として活動しており、問題を見つけた場合にはすぐに対応を指示できるようにしている。
  4. 透明性
    http://trust.salesforce.comというウエブページに情報を公開し、稼働状況やメンテナンスのスケジュール等を公開し顧客が見える形で情報を提供している。また、もし顧客から要請があれば包み隠さず情報を提供する体制になっている。また、レギュレーションについても、要請があれば提供できる体制になっている。
    バージョンアップなどについては、顧客に事前情報提供を徹底し、できるだけ顧客に影響が出ないようにしている。

セールスフォース・ドットコムのセキュリティということで、非常に深く対策が取られていることがわかった。その上で、透明性を高めて利用者に対する説明責任を果たしている。このように、クラウドプロバイダとしての方向性を決めていくようなセキュリティ対策となっていると思われる。

CSAのガイダンスで述べているように、IaaSと違いSaaS/PaaSに関しては、プロバイダのセキュリティ対策に依存しなければならないところが多い。しかしながら、説明責任は利用者側に残る(セキュリティ対策はプロバイダ側に移動したとしても説明責任は利用者側に残る)ことに基づき、利用者のリスク管理の一部としてプロバイダのセキュリティレベルをきちんと確認しておくことが重要になる。セールスフォース・ドットコムのセキュリティ対策は、プロバイダが行うべきセキュリティ対策として、利用者が確認しておくべきことの指針になるものと思われる。

なお、勉強会の資料は2週間後を目途に一般公開される予定なので、詳細についてはそちらを参照してください。

CASB (Cloud Access Security Broker)概要、ケーススタディー(第14回CSA勉強会)

CASB (Cloud Access Security Broker)概要、ケーススタディー(第14回CSA勉強会)

日本クラウドセキュリティアライアンス
諸角 昌宏

7月28日に行われた第14回CSA勉強会について報告します。テーマは、「CASB (Cloud Access Security Broker)概要、ケーススタディー」ということでした。クラウドセキュリティの新たな潮流であるCASBは、あらゆるクラウドサービスの安全な利用のためのテクノロジになります。今回、日本で真っ先にCASBソリューションを展開しているマクニカネットワークスさんのみなさまに、CASBとはなにか、どのように使われるものかについて、デモを交えて説明していただきました。

まず、ブローカーという言葉とクラウドセキュリティをどのように結び付けているのか、というのがCASBという言葉を最初に聞いた時の感覚でした。ユーザの代理でクラウドセキュリティを担保してくれるようなサービスであれば、それは望ましいことですが、果たしてそんなことが可能なのでしょうか。もし、サービスを使っている状況でセキュリティ侵害が発生したら、保証問題になってしまうのでしょうか。ということで、あまりビジネスモデルが思いつかない状況で今回の勉強会を聞きました。

さて、クラウドの利用者は、どのような基準でプロバイダやクラウドサービスを選べばよいのでしょうか。CSAのガイダンスでも言っているように、基本はプロバイダとの契約にどこまで要件等を落とし込めるかになります。しかしながら、プロバイダが提供している情報でどこまでプロバイダを選定することができるか、また、クラウドの場合、サービス自体がサプライチェーンとなっている場合も多く、それらを含めてすべて理解することはほぼ不可能です。そのように考えていくと、CASBが徐々に見えてきます。CASBは、最初にガートナーが定義したところによると、「1つ以上のクラウドベースサービス全体で、単一のポリシーを適用できる」とのことです。要は、クラウドサービス(群)とユーザの間にアクセスポイントを提供し、そこでセキュリティポリシーを強化していく技術であるということになります。特に、シャドーITのように、利用者側で使われているクラウドサービスがコントロールできないような環境において、CASBが仲介することでコントロールを可能にするテクノロジになります。

CASBは、ガートナーの予想では、今年の市場規模が$100M、2018年には$400Mに達するということで、既に10社を超えるCASBベンダーが存在しているようで、この3年間で最も注目されるテクノロジとのことです。また、別のデータとして、1企業が利用しているSaaSアプリケーションの平均が1.083個であるとのことです。これは、シャドーITを含めた数字になりますが、相当数のSaaSアプリが既に使われていることがわかります。
さて、CASBですが、以下の4つの柱からできています:

  1. 可視化
  2. コンプライアンス
  3. データセキュリティ
  4. 脅威防御

この4つの柱を見ていくと、CASBの活用事例が見えてきます。まず、クラウド利用の現状を把握します。いわゆるシャドーITの実態を可視化により把握できるようにします。次に、クラウドサービスを管理された状態にします。これにより、コンプライアンス要件を満たしていくようにします。また、既存のテクノロジ(DLP等)と連携し、データ保護、脅威防御を実現し、オフプレミスでのデータ活用を促進できるようにします。最後に、クラウドサービスのライフサイクル全体を支援することで、ビジネスの俊敏性を実現していくことになります。

勉強会では、さらにSkyHighのデモを交えて、具体的にCASBでどのようなことができるかを説明していただきました。2つのIT(シャドーITと許可されたIT(sanctioned IT))で、どのようにCASBが利用されるかというデモでした。

  1. シャドーIT
    シャドーITに対しては、CASBの持つ可視化機能によって、すべてのクラウド利用状況を把握することができるようになります。また、クラウドサービスのリスク判定を行い、リスクアセスメントポイントを設定しています。これは、SkyHighがCSAのCCMをベースに独自に調査を行ったもので、既に4,000以上のSaaSアプリケーションが登録されています。ユーザは、このポイントを基にリスクを判断し利用するかどうかを決定することができます。
  2. 許可されたIT
    ログ等を集め解析を行います。これにより、監査証跡、ポリシーの強化、コンプライアンス対応等を行うことができます。また、イベントに基づく検知や脅威防御を、DLP製品等と連携して行うことができます。

以上のように、クラウド利用において問題となるセキュリティ対策を、利用者とクラウドサービスの間に立って行うことができるということから、今後、期待されるテクノロジということができます。解決しなければならない問題、たとえば、CASB自体が単一障害点になったり、ボトルネックになったりする可能性や、モバイルを用いた外部ネットワークからのアクセスの対処などが考えられるようですが、解決が難しい問題ではないと考えられます。

最後に余談ですが、CASBとタイプしようとして、CSABとタイプしてしまうことが結構あり、職業病かなと思うところもあります。CSAB(CSA Broker)なんて存在が必要にならないよう、CSAも地に足を付けて頑張らなければと思います。

以上、概略ですが、勉強会の報告といたします。

以上